恐山に行ってきた話
恐山に行ってきた。
私は恐山を観光するのが好きなのだ。
今日は硫黄がところどころで吹き出ていた。去年よりも火山の活動があるのかもしれない。
白い岩がゴロゴロとした地帯を抜けて、極楽浜のベンチにすわって、ぼうっとカルデラ湖を眺める。
近くには東日本大震災の慰霊碑。
突き抜けるような青空と、そっと湖のほとりに備えられたひと束の花を見ながら、なにも考えない時間を楽しんでいた。
少しすると、参拝に来たおばあちゃんが慰霊碑に話しかけながら歩いてきた。
お父さん、今年も来たよ。
今年もこれた。
お父さん、今日はなんだか優しい顔をしてるね。
そんな風に話しかけていた。
参拝が終わると、のんびりと座っている私にいい天気だねと気さくに話しかけてくれた。
毎年、この日に来ているらしい。
震災慰霊碑を参りに来ているのだから、震災で…と察し、特に何も聞かなかった。
今日は震災があった日ではないが、おばあちゃんにとって特別な日なのかもしれない。
恐山は、この世とあの世の境界線みたいな場所。少なくとも、私はそう感じている。
そして、パワーレススポット。
排水口みたいに、エネルギーを全部流してしまうところ。
恐山からは、ものを拾って持って帰ってはいけない。
辛さや悲しみ、苦しみをここで流して、肩の荷を降ろすことができる。
敷地内を歩いていると、不思議と雑念がわかないというか、ネガティブなこともポジティブなことも考えなくなる。
日常からふいっと離れることができるから、私はこの場所が好きだ。
帰る前に境内の温泉に浸かりに行く。
温泉に向かうと、途中で先ほどのおばあちゃんとすれ違った。こっちのお湯がちょうどよくて入りやすいよ、と教えてくれた。
気をつけて帰ってね、おばあちゃん。
温泉は、とろけるような気持ちよさだった。
今回の恐山の目的は、自分の荷物を降ろしにいくことと、開山したから仏様達にご挨拶をしに行くこと。
きちんと終えられたので、また粛々と日常を過ごしてゆくのである。